――暗い、暗い部屋。
冷たそうな鉄格子。
初めに視界に入ってきたのもがそれだった。
「……牢屋か……」
おもしろくなさそうに、セレスはつぶやいた。
辺りを見回すと――
鉄格子の向こうに、ミリアとリースがいた。
もっとも、鉄格子はただの境で、彼女らも牢屋に入れられている。
「セレス様、気がつかれましたか?」
そのなかでリースは元気いっぱいに話しかけてきた。
――ミリアは―眠っているようだ。……ただ、表情はとても苦しげだったが……。
そして、二人に共通していることは、手が使えないこと。
手は、後ろに回されて縄でかたく結ばれている。
「どうやら私たちは捕まってしまったようですわ……ここは魔界の城の牢屋のようですから……」
……これもフィーナがやったことだろうか。
本当に、自分たちを裏切ったのだろうか――。
「セレス様、フィーナ様は悪くありませんわ」
セレスが考えると、心を読んだように、リースが言う。
――悪くない?こんなことをしておいて?
「フィーナ様は、自分が生きるために私たちを見捨てなければならないんですわ。
 本当は、やさしい方ですのに……」
「何?」
何か理由があるというのか?
セレスはリースの話に耳を傾けることにした。
 

「……ご苦労でした……」
なんとも形容し難い声で、彼は感謝の言葉を述べた。
感情など少しも込められてなかったのだが、彼に対しての違和感など持ちえない。
なぜならもともと感情のないような魔族なのだから……。
「……これで文句ないわね。ネストレック」
フィーナも感情を押し殺し、冷たく言った。
「ええ、もちろんですよ……」
――憎らしい。
そんな感情を感じはするが、平然としている彼女。
いや、平然としていなければならない。
フィーナは、ネストレックの部屋を出た。
冷たい廊下が視界に広がる。
―少し、廊下を歩くことにした。
消失点が一目でわかるような長く、一直線に続く廊下に、乾いた靴音が響きわたる。
「…………」
フィーナは黙ったまま、知恵をしぼっていた。
なんとか、みんな生きる方法はないか……。
――答えなど見つかるはずもない。
今までさんざん考えたのだ。今さら何もない。
フィーナと、セレスたち3人ではネストレックには勝てない。絶対に。
ネストレックは邪気を使う。邪気は3つの暗黒の獣を作り出す。
黒のエネルギーから作り出されたそれらは彼の意思により独立して動作する。
――つまり、彼を敵対する場合、4人を相手にすると見なさなければならない。
しかも(魔王はいないので)、ひとつひとつが魔界最強といってもいい。
そんな奴に2人(ミリアとリースを除く。戦力外だし。)で勝とうとすることさえ無駄だ。
勝ち目は、多少あるにしても、セレスは一撃でも攻撃をくらえばほとんど即死だ。
やはり、勝率はゼロに等しい。
やはり、あきらめるしかない。
フィーナは何もかも放り出して壁にもたれてうずくまった。
「……もう、何もかも、無くなったわ……」
――彼女は幸せをあきらめた。
「さよなら、セレス、ミリア、リース……死んでも、いつか幸せになって……」

廊下には、力のぬけた女性が壁にもたれてうずくまっていた。
時間など刻んでいるのかいないのかわからないくらいに…。


コッ……コッ……コッ……
乾いた靴音が廊下に響く。
「ふふふふ……」
妖しげな女性の声が聞こえる。
カチャ……
カギのはずれる音がした。
――そして、次の瞬間には
見知らぬ女がミリアの前に立っていた。
「きゃぁっ!」
声を上げたのはリースだった。――ミリアは眠っているので。
「な、何ですの!?あなたは!?」
見たこともない女性だ。かといって、助けにきた人というわけでもなさそうだ。
「ふふふ……」
金色の髪に金色の瞳。誰もが美しいというような金色をしている。
ミリアの髪も金色だが、彼女は黄色といったほうがさしつかえない色だ。
だが、この女性は金としかいいようのない髪と瞳をしている。
女は、ミリアを抱き上げた。――縄はひとりでにほどけてゆく。
「かわいいですねぇ…」
うっとりした表情と声でミリアをとらえている――金の女性。
リースはふと思い出した。
確か――
魔界の最上級魔族は魔王をはじめ、魔界四王と魔界三師、あとそれとリースの父親
(立場上)のゼファードと数名である。
その魔界三師―邪呪法師、魔界幻師、魔剣士師のうちで金を基調とする者……
魔界幻師ティレオルと呼ばれる名だった。
「――食べてしまいたいですね……」
玩具をもてあそぶような口調に、リースは改めて危機を感じ取った。
「ミ、ミリア様をどうするつもりですのっ!?」
恐れながらも勇敢に立ち向かう。
しかし、恐いのもまた事実。自分の命など、この相手の前ではロウソクの炎も同然だ。
すぐに消滅してしまう――ロウソクの炎のように。
闇を照らすロウソクの炎がゆらめく。
「……そうですね……とりあえずは死が待っていますが」
「……っ!……」
瞬間的に言い返せなかったが、落ち着いて言葉をつむぐリース。
「……なんで……私たちは静かに暮らせないんですか……
なんでっ!死ななければならないんですか!?」  

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送