「あぁ〜♪ ほんとにいー天気だね」 木陰でランチタイムの姿勢のミリアが伸びをしながらつぶやいた。 町を早々に出発し、ちょうど昼になったのである。 しかも、休憩にはもってこいの木陰。 「とゆーか、ミリア。よだれかけをかけているようだが飯は出んぞ」 『えぇっ!?』 セレスを除く、3人の声が重なる。声が本気でおどろいている。 「ど、どーゆーことですの!?」 「ほんとにほんとにほんとにないの!?」 「おなかすいたよぉ〜」 3人の声は心から切実そうで、なんだか良心が痛んでくる。 「いや、待て。別に食材はある。ただ、すぐに食えん」 「……ってことは……」 「調理しなくちゃダメってコトですの?」 ――なぜかフィーナだけはイヤな顔をしている。 「セレス〜!! あたしが料理できないの知ってるでしょーっ!!」 「知るかっ! 俺は記憶がねーんだっ!」 …………。 フィーナは“なるほど”、とぽんと手を打った。しかし、それは一時だけだった。 「なら、今言うわ! あたしは料理下手なの!! そもそもなんで携帯用食料買わなかったのよ!!」 普通、旅には携帯用食料(パン、干し肉等)が食料として使われる。 理由は、かったそのままの状態で食べられることであろう。 わざわざ料理するのはよっぽどの料理人くらいである。 多少は火を使うにしても、ニンジンやジャガイモから調理するなんぞめんどくさすぎる。 食材をそのまま使うメリットがあまり無いのである。 あるとすれば“手作り料理が食える”くらいであるのだ。 食材ってかさばるしね。 「見せが閉まってた」 「……身もフタもないわね……」 「ほ、ほかの店はなかったんですの? あそこの町ってけっこう大きかったし」 「あった。だが高いので買えなかった。他に閉まってる店もけっこうあったしな」 「よ、よーするに貧乏が悪いのね……。……あんた王子のくせに」 ハンカチで涙なんぞふくフィーナ。死活問題のためか、演技にも力がはいっている。 「だから記憶がねーって言ってるだろ」 「みゅ〜、どうするの? おひるごはん〜」 ミリアは涙ぼろぼろで悲しみのまなざしを送っている。 ――フィーナと違って演技ではないらしい。 「作りゃあいいだろ。貴様が」 ミリアは一瞬きょとんと一呼吸置くと、 「うん♪ 私、お昼ごはん作るっ!」 一転して笑顔で答える彼女。 山の天気とミリアが“変わりやすさ勝負”をしたら彼女が勝つだろう。 ――かくして、ミリアとリースは(←料理好きらしい)昼食を作ることになった。 2人――セレスとフィーナは、ミリアとリースとは違う木陰にいた。 四季の変化がないライタルト地方でも、春のようにぽかぽかした日はある。 今日はそんな日だ。 「セレス」 うっかり寝てしまいそうな中、フィーナが呼んだ。 「何だ?」 呼んだら“なんだ?”と聞く性格はもとのセレスのままである。 「お姉さん、って欲しいと思う?」 フィーナは笑わずに言った。今のセレスには自分が姉であることを言っていない。 何故か言えなかったのだ。――なんとなく。 「別に」 そっけなく、彼は答えた。 「そう……」 “欲しい”と言ったら、自分が姉であることを言おうかと思ったのだが。 ――結局、言い出せないのはセレスに嫌われるのがイヤだからなのだろうか。 「じゃぁ、早くもとに戻りたいと思う?」 セレスの顔をのぞきこむフィーナ。セレスの顔は十数年前と同じなのかもしれない。 「当たり前だ。……俺が何者か知りたいしな」 ――フィーナは、内心がっかりしたようだった。 セレスを子供の状態にした理由は、戦闘能力を低下させること以外にもうひとつある。 フィーナは、セレスと仲良くなりたかったのだ。 彼女が魔族になった日――セレスに殺された日以前のセレスは、普通の子供だった。 ちゃんと人の心を持った、普通の子供だった。 その頃にもどりたかったのだ、フィーナは。 フィーナ自身が犯した罪を、セレス本人が知らない状態……それが今である。 きっと……いや、確実にセレスはフィーナを憎んでいる。その罪のせいで。 その気持ちを忘れてほしかった。――でも忘れている時は今だけなのだ。 もとにもどったら、その気持ちは復活する。そしたら、今みたいに仲良く話なんか できないだろう。 今だけなのだ…… 「セレス、もっとこっちに来ない?」 |
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