3.動き出す心


 

―――そもそも、ミリアは別にセレスを子供あつかいしているわけじゃない。
今までセレスを頼ってきたミリアは、セレスが子供になったから
こんどは自分がセレスを守ろうとしているのである。セレスが大好きだからね。
でも、そのへんはミリアだから “自分の子供あつかい” にはなってると思う。
自分の子供みたいに、すごくすごく、大事に思っているんだ。
それに、さっきのミリアの笑顔だって
セレスが “私のこと考えてくれた” と思って、うれしくて言うとおりにしたんだよ。
それなのに、ミリアの気持ちちっとも分かってないじゃないか、君は。
それが分からないようじゃあ、まだまだ子供だよ。セレスくん。

辺りは真っ暗だ。
武器屋や道具屋も閉まっていて、旅に必要な剣が買えない。
とは言ってもさすがわセレス。昼間に武器屋で短剣を買っている。
―――いつものやたら長いロングソードは、今のセレスの身長の倍以上もあるし、
重すぎて使えない。力がないため、必然的にスピードと技術での勝負となるので、
軽くて小回りのきく短剣が便利である。
さて、これからどうするか。
こんな山奥のことだから、とーぞくも当然いるだろう。
村を出れば接触する確率も高くなるだろーし、夜にこんな山を下るのは自殺行為だ。
すると・・・・・・残された道は―――
「家のそばで野宿して朝を待つくらいだな・・・・・・」
―――家のそばならとーぞくもそうそう会うものでもなくなる。
んで、朝になれば山を下るわけである。
山を下る際、必要なのは体力である。子供になってあらゆる能力が低下しているため、
下山途中で力尽きるなどという事態も十分に考えられる。夜なら確率も上昇する。
だがそれはまぁ普通の5歳児ならの話であって、実際にセレスがのたれ死ぬとは
考えにくい。彼の場合だとそーなんしても魔術でなんとかするだろう。
もうひとつ心配なのはとーぞくである。ひとりやふたりならなんとかするが、
いくらなんでも大勢の野郎どもを子供ひとりでさばくのは骨が折れる。
ましてや夜だとこちらばかりが不利である。最悪の場合にもなりかねない。
とゆーわけで朝を待つのである。・・・・・・そーこーしているうち、
セレスは夜道を歩いているとそばで野宿するのによさそーな家を見つけた。
この場合、適した条件は光が届かないで、何かの影に家があることである。
あの家は、山に生えている木と葉に少しおおわれているため、
夜道側と反対側の家の壁で野宿すれば、夜道を歩いている人からは
死角となり、見つけられにくいのである。
多少危険だが、何もないところで野宿するよりは安全なはずである。
ただ、火を起こすと山火事になりかねないので、ちょっと寒い。
セレスは、袋から毛布を取り出し、家の壁にもたれかけて毛布にくるまった。
・・・・・・・・・・・・風がふく・・・・・・・・・・・・
こうしていると、けっこうさびしいものである。
食費百倍の3人 (通称) の声は聞こえてこない。
ただ風が、木々を揺らす音しか聞こえない。
(・・・・・・あんな3人でも・・・・・・いないと・・・・・・さびしーもんだな・・・・・・)
うつろな目で木々のざわめきを見ているセレス。
やがて首を横にふる。
(・・・いかんいかん・・・・・・あんな役立たずども必要ない・・・・・・
 食費がかさむだけだ・・・・・・ひとりがいい!!)
セレスは心にかたく念じるのだった。
今は、朝を待つだけた。セレスはさっさと寝ることにした。


「わーい♪ おふろはいってきたよ、セレス♪」
ミリアはほっかほかるんるんで、浴衣で部屋に入ってきた。
しかし―――
「あれ?」
セレスの姿はない。
「セレス? どこ?」
ひとしきり探した後、ミリアはセレスの荷物がなくなっていることに気づく。
「セレス・・・・・・!」
ミリアは表情をゆがめながら、フィーナとリースがいる部屋にむかった。
「ねぇ、セレスが・・・・・・セレスがいなくなっちゃった!」
そう言った瞬間、ミリアの瞳から涙があふれ出た。目元はぶるぶる震えている。
ライトブルーの瞳は、川に映った満月の様にゆらゆら揺れている。
「ええー―― っ!? なんですって!?」
ブラシで金髪 (ブロンド) の髪をといていたリースは
ぐわっと立ち上がって目をまんまるにして叫んだ。
あ、ブラシ落ちた。
「ど、どーゆーことよ、ミリア!?」
フィーナにも驚きとあせりの色がみえる。
「わかんないぃ・・・ひっく・・・お部屋入ったらセレスもセレスの荷物もいなかったの・・・」
ミリアはもう完全に泣いている。
「ええぇっ、それじゃあセレス様は宿から出て行かれたんですの!?」
リースも今にも泣きだしそうである。
「・・・・・・むー――、何やってんのよ、あたしの弟は・・・・・・」
フィーナの目もうるんでいる。
「私、探してくる!!」
泣きながら、ミリアは部屋をとび出そうとした。
「まてい。」
ミリアはフィーナに浴衣のすそをつかまれ、びたんっと前のめりに倒れた。
「いたい」
―――どうやらミリアは顔を打ったらしい。
「あんたねー、どーせ浴衣のまんまで行こうとしたんでしょうが。」
フィーナはジト目でミリアに言った。
「だって、だって・・・早くしないとセレスが・・・・・・」
「夜の村を浴衣で歩き回るのは危険だわ。ちゃんと準備しなくちゃ。
 セレスを見つける前に死んじゃったら何にもなんないでしょ。」
―――ミリアはへたんと座り込んで泣きながら上目づかいでフィーナを見ている。
「ほらほらミリア、さっさと着がえて。
 ・・・・・・セレスは大丈夫だから。準備を整えて、みんなで探すわよ。」
フィーナは優しく、力強く言った。
「・・・・・・うん。」
涙をいっぱいこぼしながら、ミリアはこっくりとうなずいたのだった。」

 

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