「わっ!」
ずがらしゃあん!
床に、みんなのお食事がたたきつけられる。
ミリアが運んでいたものである。ご察しの通り、コケて全部こぼしてしまったのである。
「みゅー、いたたた…」
「お前は仕事ひとつできんのか。」
頭をかかえて痛がっているミリアに、セレスはあきれ顔で言った。
「だって、つまずいちゃったんだもん…」
「……おまえな〜廊下には何もねーし車は安定性良いし、どうやったらつまずくんだよ…」
「ねーねーこのえびふらいおいしーよ♪」
「落ちてるもの食ってんじゃねぇ!
……まったく……このまえは城の窓ガラス割るしカーテン破るし、今度は昼メシかよ……
おまえに仕事させたらロクなことが起こらん……」
―――城に大ダメージを与えているミリアだが、やっかいなコトに
本人はいっしょーけんめーやっている。…城の崩壊をくいとめる方法はただひとつ!!
「ふぅ……ミリア…旅に出るぞ……」
セレスは、死んだ目で言った。ミリアを城からひきはなす大作戦である。
「わーい♪」
何だかわからないがよろこぶミリア。
「ほら、さっさと準備しろよ。」
「うん♪」


「きゃーすみませんすみません!」
女の子があわてて走りまわっている。
「まちやがれこのガキ〜!!」
後ろから数人の大人の男がついてくる。
どうやら追われているようだ。
「きゃー誰か助けてくださーい!」
「こらガキ!何が“助けて”だぁ!!」
「そーだ!!食い逃げなんぞしおって!!」
「待ちやがれー!!」
……おいおい、食い逃げかよ。
「うぇーん、だっておなかすいてましたの〜」
……だったら金払え。
音速で鬼ゴッコしているうち、女の子は正面にセレスを見つけた。
「わーん、そこの方、助けてくださーい!」
言ってセレスの後ろに隠れる女の子。
「……なんだコイツは……」
セレスの顔はひきつっている。
「どーしたの?」
ミリアが女の子に聞いてみる。
「うええん、よくぞ聞いてくれましたぁ〜」
女の子は何やら語りはじめた。
「さてさて、ちょうどお昼時♪ 私もおなかがすきまして、ごはんを食べに行きました♪
おいしかったのはいーですけれどもおサイフ忘れてしまいましたぁ♪
んで、こーやって逃げているとゆーわけなんです。助けてください♪」
「おまえが悪い。」
セレスはきっぱり言った。
「きゃーそんなコト言わないでください〜」
「おい、にーちゃんたちこの食い逃げ娘の知り合いか? だったら金払ってくれよ!」
男が言う。
「知らねーってこんな奴……」
「ねーねー、セレス♪助けてあげようよ♪ “困った人は助けろ”ってリスカが言ってたし。」
おひとよし絶好調のミリアがたわけたことを言いだした。
なんで見ず知らずのヤツに代金払ってやるねん。
「妹に言われるなよ……ンなコト……
ま、しょーがねかーな……いくらだ?」
セレスがことわれば、またミリアがやっかいなことになるのは確実なので(いきなり泣く等)、
ここはひとつ、腹をくくるしかない。
「わぁ、ありがとうございます♪」
女の子はていねいにおじぎをした。
―――何か底なし沼にはまった気分は気のせいなのだろうか。


「みゅ〜♪ おいし〜♪」
ミリアがエクレアをほおばりながら言った。
お礼として、彼女の家でごちそうになることになったのであった。
「貴様……ごちそうできるくらいなら食い逃げするんじゃねーよ……」
「だってぇ、家まで待ちきれなかったものですからつい♪」
―――ふざけるな。こいつの人生絶対まちがってるぞ。
「あ、申し遅れましたけど私、リースっていいます♪ よろしくおねがいしますね♪」
「うんっ♪ 私がミリアでこっちがセレス♪」
ごていねいに自己紹介なんぞしている。
「まあまあ、みなさんいっぱい食べてくださいね♪ もちろん私も食べますけど♪ 
ほらほら、セレス様もおひとつどうぞ♪ このアイスクリームなんておいしーですわよ♪」
―――ひたすら怪しいが、ミリアが大丈夫なんだから、だいじょーぶだろう……
セレスはひとくち食べてみた。
ちゅどおおおおん!!
爆発した。おいおい。なんで爆発するんだよ。
―――煙がおさまってみると…
「あれ?セレスがちっちゃくなってるよ?」
……ほんとだ。さっきまでのセレスがそのまま子供になった感じ。
5〜6歳くらいかな。びっくりしたような目はかわいいが、目つきは根性悪いまんまである。
「きゃ〜すみませんすみません! そのアイスクリームのトッピング、
“チョコ” と “子供になっちゃうぞ薬” をまちがえてしまいましたぁっ!!
すみませんすみません!」
フツーまちがえんわい!!そんなもん!!
しかもなんでその薬で爆発する!?
「セレス、かわい〜♪」
ミリアはセレスに抱きついた……とゆーより “だっこ” したと言ったほーがいいかもしんない。
「?」
まるで、まわりの景色を初めてみるかのような顔をするセレス。
「……誰だおまえ。」
セレスは、不審な目でミリアを見る。
「……セレス……私……覚えてないの……?」
ミリアの顔がだんだん曇ってくる。でも、すぐに明るくなった。
「だいじょーぶ♪ 私がもとにもどしてあげるよ♪」
とびっきりの笑顔でそう言った。
セレスは笑顔に押されたか、赤くなった。
「ふ……ふん……。」
とりあえず、安全なことはわかったセレス。
「あの〜、ちっちゃくなっちゃったの、私のせいですし、
よろしければお手伝いさせていただけますか?」
「いーよ♪ 旅はおおぜいのほうが楽しいもんね♪」
「きゃー、ありがとうございます♪」
―――何だか知らんが、リースもついてくるようである。


「うまくやったよーね♪ リース。さすがあたしの弟子だわ♪
……何かいっしょに旅しよーとしてるけど…」
―――空高くに、2つの人影がある。フィーナとアルザスだ。
「……ふ……天然だと思うがな……」
「う、そ、そんなコト言わないでよ……本当に天然でやってるかもしれないじゃない……」
フィーナは汗だくである。
「ま、まあ作戦どーりだからOKよ!!」
「……子供に変えてしまえば殺しやすくなるハズだ……あとはフィーナ。おまえの役目だ。」
「ふっ。まかせといて♪」



「おい、おまえらどこ行く気だよ、道合ってんのか?」
いちをー旅に出ることにしたのだが……
「え?わかんない。どこいくの?リース。」
「さぁ、私もわかりませんわ。」
「……。」
「……。」
「……行き先も決まってなかったのかよ、てめーら。」
『うん。』
ミリアとリースの声が重なった。――……をいをい……本気で心配だぞ、おまえら。
「あ、でももとにもどる方法ならありますよ。たぶんこの説明書にかいてありますわ♪」
リースは一冊の本をとりだした。
「えっと、“子供になっちゃうぞ薬でちいさくなった方は、
お気の毒ながら特に有効な方法は存在しませんので、
ご使用の際にはよく考えてから服用してください” ってかいてありますわ♪」
「ええかげんにせんかああい!!」
―――ずげどしゃああん!!
フィーナの超特大木づちがリースを押しツブした。
ちょーどリースがクギの役目をして、町の石畳に首までめりこんでいる。
「ちょっと、リース!! あんたねー!!まじめにやんなさいよ!! 
だいたいなんでいっしょに旅に出てるのよ! 役目終わったらさっさと帰ってきなさいよ!!」
「あ〜ん、すみません、フィーナ様〜私、いっしょについて行きたかったんですぅ〜」
「ねーねー、リース、フィーナ知ってるの?お友達?」
ぎくうっ
フィーナは心臓が止まりそーになった。
(う……ついツッコミのいきおいで出てきちゃったけど……このあとどーしよう……)
そんな汗だくなフィーナとは裏腹に、リースはるんるん明るい。
「あ、そーなんです、ミリア様。でもお友達っていうよりフィーナ様は私の師しょ…」
「よけーなコト言ってんじゃないわよ!リース!! 作戦がバレるでしょーがあっ!!」
「ねー、フィーナ、さくせんてなに?」
ミリアが再び問いかけた。むうっ!? 今日のミリアはサエてるのか!?
「それはですね、ミリア様。実はわた…」
「くおらっ! 何しゃべってんのよ!!」
フィーナはリースの首をしめにかかった。
「…で? どうしたの?」
ぎくぎくっ
―――今日のミリアはやっぱり鋭い。かもしれない。
フィーナは汗をだらだら流している。……やがてコホンとひとつ、せきをして、
「そう、ミリア!あたしとリースは昔のお友達なの♪ 
それでもって“作戦”てゆーのは最近発売されたケーキの一種で、
クリームたっぷりのヤツ!!」
―苦しい。これはいくらなんでも苦しい。
「ふーん、そうなんだ♪」
―――おいおい。納得してるんじゃありませんてば。
「そうそう、そーゆーことなのよ、ミリア♪」
だいぶ苦しい言いわけだが、ミリアだし、セレスは聞いていないのでだいじょーぶ。
「ねぇ、フィーナ、いっしょに旅しよーよ♪」
ずがん!
フィーナは、そこらへんの木に頭をぶつけた。
「……な……なんでそーなるのよ!前の会話との関連性がまったくないでしょーが!」
―――もうすでにフィーナの頭はぱにっくになっている。
「きゃ♪ フィーナ様がいっしょに来てくだされば百人力ですわ♪」
リースはよろこんでいるようだ。
(百人力ってあんた、本来の目的、忘れてないでしょーね……)
フィーナはリースをキッとにらみつけているがリースのほうは気づいていない。
「ね、フィーナ♪ 旅はおおぜいのほうが楽しーよ♪」
ニッコリ笑うミリア。
(……楽しい……?)
フィーナは動きが止まったかと思うと、小さく笑った。
「……ま、作戦はバレてないし、旅してもさしつかえなさそーだし、……それに……」
くしゃくしゃっとミリアの頭をなでた。
「それに……たのしそーだもんね♪」
―――フィーナは笑った。
すごくすごくたのしそーな笑顔。ミリアもセレスもリースも、初めて見るんだろーな…… 

 

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