2章 「お母さんは私に“友達をいっぱい作りなさい“といいました。だから私は―――」
――――――ミリアの日記より

シークセルの森というところがある。
これは王都のある地方と、同じ国内の東の田舎的地方を結ぶ(というか隔てる)森だった。
数本の道しか開かれていないが、王都を守る防壁のような意味もあってなのか、
これ以上便をよくしようという計画はない。
アストレイフの町から西に位置し、そうめちゃくちゃ遠くはない。
この森の道を黒髪の少年が歩いていた。

黒髪の少年は、端的に言うと目つきが悪かった。グリーンの瞳である。
そして、左脇に長剣、右脇に短剣を携えている。
戦士のように見えるが、その割には鎧の防御力があまりなく、軽装であった。
彼の名はセレスという。
セレスは、この森の東にあるレナコートの町へ行く予定である。

でも、すぐ右方に煙がたちのぼるのを見て、少し興味を覚えた。
木々を分け入って煙の方へ近づいてみる。
10メートルもしないうちに開けた場所に出た。
ほぼ円形に木に囲まれた空間にたき火があった。
なんかこれでもかと燃え盛っている。その横で少女がうわ―んと泣いていた。
「・・・・・・」
事情がよくわからない、とセレスは思った。
しばらく立っていると、今度は少女がこちらに気づいたようだった。
「たすけてぇ〜」
と、少女は言った。たき火の前に正座していて、くるっと振り向いたようで・・・・・・
――――――どうやら火が消せないらしかった。
なんというかバカバカしい。
「・・・・・・」
セレスはわざわざしゃがむのも面倒なので、水を作成する魔術を唱えた。
空間の一点から水が放出され、音とともに火を消滅させた。
あぁ、バカバカしい。
「すごーい、魔術だ〜♪」
少女は胸元で手を握って、感動いっぱいの声で言った。
別に魔術がそんなに非日常的なわけではない。
習えばたいていの人は使えるようになる。
まぁ驚くということは、自分がまだ魔術を使えないからなのであろう。
「ありがとう♪」
少女は元気いっぱいの笑顔をうかべた。
金髪のストレートヘアがふわっと浮いていっそう可愛らしい。
「火が消せなくて困ってたの。まだ私、冒険のこととかよくわからないから。」
「そんな奴がなぜこの森を抜けようと思ったんだ。」
この森は魔物がちょこちょこ出たりしてけっこう危険なのだ。
「私、海に飛び込んで、なんか変なふうになって気がついたらこの森にいたの。」
なんかえらく明るく言っているが、自殺しようとしたらしい。
しかし、奇跡的に助かったらしい。
この森は海に近く、そういうこともあるのかもしれない。
「前の冒険者の人たちが食料とか置いていったものを食べて、
ここで暮らしてたんだ、私。」
おそらく、魔物に襲われて殺されたか、逃げたかの冒険者のものだろう。
キャンプの跡があった。
「それでうまく火が扱えなかったの。昨日とかおとといはうまくいったんだけど、
今日は失敗しちゃった。 火、消してくれて本当にありがとう。」
少女は立ちあがってぺこりとお辞儀をした。
そういえば彼女の金髪や服はうす汚れていた。
青い瞳だけは綺麗だったが。
「・・・・・・森を燃やすなよ。今度から気をつけろ。」
セレスはそっけなく言った。それが彼の性格だ。
振り返って、道がある方へ歩いていく。
「うん。ばいばーい・・・・・・」
少女は手を振って見送った―――がなにかに気づいたようだった。
というか、思いついたっていう顔をしていた。
「あ、あのー」
その声にセレスは振り返ってやった。
「何だ?」
「えっと、私を連れてってくれませんか? 私、ここから町まで行く自信がなくて。」
「・・・・・・」
セレスは嫌な顔をした。
でも少女はくじけないぃぃっとばかりに頭を下げた。
「お願いしますっ。私、このままでいたら死んじゃうかもしれないから。」
それは事実のように思えた。ここから町へは1日では到底たどりつけないので、
こんなわけのわからん少女には無理だろう。
「・・・・・・」
この少女にはある種、執念のようなものを感じた。
使命であるかのように、セレスについていく気であるようだ。
こんな奴の願いを断ったらどんな厄介なことが起こるかわからない。
ある程度妥協して解決してやったほうが面倒にはならないだろう、とセレスは思った。
「・・・・・・わかった。ついてこい。」
少女はぱーっと笑顔になった。
そこにはさっきの執念めいた雰囲気はどこにもない。
あるいはさっきの執念はこの少女の性格ではなく―――もっと別のものなのだろう。
「ありがとう。よろしくね♪ 私ミリア。あなたは?」
「・・・・・・セレスだ。」
ミリアはにこーっと無邪気に笑っていた。

ミリアは最初に決めていたのである。
最初に出会った人と絶対お友達になろうと。
それは母の願いであり、
いわば彼女自身、使命か執念のようなものであった。

 

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