「あなたの名前は何ていうの?」 「み、ミニルム=イフス=リミリフルトです」 「じゃあミナって呼ぶね。ミナ、わたしが家まで送っていくからもう大丈夫だよ」 言うと、メリィが不服そうな顔をしていた。 「……もったいない」 「いや、もったいなさがどうとかじゃなくて犯罪だからさ、これは」 「まだいくらでも法律の網をくぐれますが?」 「人としてだめ」 エリィはふとミナのほうに目をやった。涙目でもの言いたげである。 自分の服を握っている彼女の手に力が込められるのを感じた。 「なあに?」 きくと、ミナは答えにくそうに目を伏せる。 「あ、あの……わ、私……」 「?」 「私、家に帰りたくないです!」 「え?」 エリィは少し驚いた。今の言葉は並大抵の決心のものではない。彼女は本気で家が嫌なのだ。だからこそ……驚いた。 「……なるほど。理由を聞きましょうか」 常に冷静なメリィもこれには少しばかり驚いたらしく、目が丸くなっていた。 「私のお父さんは、悪いことをしてお金を儲けてるんです。なんか怖そうな男の人たちが部屋に集まっているの見たことあります。麻薬、みたいなものとお札の束がありました。 ……それに、お父さんは私に週に一度でさえ会ってくれないんです」 ぐしっと、ミナは涙をぬぐった。 「ふむ。利発的なお子さんですねえ」 メリィはそう言うが。 家族と一緒にいたくてもいられない人もいるというのに、そういうのはどんなものだろう。 自分の意志で家出を決めたとしてもやはり本当は親が恋しいのではないか。 ……自分の基準でこういう問題を考えるべきではないな。 「でも、わかっていますか?ミナ。私達の前で家に帰りたくないなどと言うことはあなたのお父様の死を意味するんですよ?」 「いや、死とかは出てこないけどさあ。でもわたし達はお父さんを警察につきだす可能性もあるわけだから。ミナがそれに反対するならやらないけど、もしお父さんなんてどうでもいいって言うのならそうするかもしれないよ?」 そう言うと、ミナは押し黙った。やはり彼女にとっても親は大切に違いない。 違いないが―― 「……お父さんは一度刑務所へ入って欲しいです。そしてもとのお父さんにもどってほしいです。だから……かまいません」 ――大切に違いないが、今の親は嫌い、というのはあるのだろうか。 せっかく親が生きているというのに悲しいことだ。 「うん。わかった。とりあえず今日はここに泊まってよ。二人部屋だけど結構ベッド大きいからわたしといっしょに寝ようね」 「あ、はいっ、ありがとうございます」 ミナは本当に嬉しそうにお礼を言った。その姿を見て、エリィは少し悲しい気持ちになった。でもまあ、仕方のないことなのだろう。 「ミナ、明日になって帰りたいなんて言わないでくださいよ。さて、話もまとまったようですし、三人でご飯でも食べにいきますか」 「ん、そだね」 「はいっ喜んで」 元気よく返事をしたミナの顔にはもう涙のあとはなかった。 「ここは大きな街ですから、そう簡単に家出なんか見つかりませんしね」 メリィの言葉に、窓の外を見てみると、空はすっかり暗くなっていた。 明日の夜は作戦実行の時。 エリィはその時があまり来て欲しくないな、と初めてそんなことを考えた。 |
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