「ミアキス」 私は名を呼ばれてはっとした。これからやる大きな仕事の前に少々思いをめぐらし過ぎたようである。 「ごめんレウス。ちょっと考え事してた」 私が苦笑すると、レウスも笑ってくれた。 「ブリューナク砲の最終点検が終了した。後はお前の指示待ちだ」 「うん」 私はうなずくと、研究員のみんなに回線をまわした。 「ブリューナク砲発射用意!」 重低音とともに魔法エネルギーの蓄積が開始される。 おおよそ四十五度に傾けられた砲口付近にもエネルギーが可視光線となって輝いていた。 ブリューナク砲。貫くもの。この魔力砲はある目的のために開発された。 この大陸を外界と隔てるドーム状バリア、通称「大陸バリア」の一部を破壊することだ。 バリアが破壊されてから、バリア自身が自己修復を完了するまで三百三十秒。その間に娘を――私とレウスの子供を外界へ送り出す。 「エナジーレベル八十、九十、百パーセント!」 「制御システム、異常ありません」 「各部動力機関異常ありません」 いよいよ……あのバリアを壊す時が来た。 私は拳を握りしめた。 ディスプレイで状況を伝えてくれる研究員たちとは長い付き合いだった。 他の配置に付いている親友もいた。 私のプロジェクトに賛同してくれた同志たち。 「みんな……ほんとにありがとう」 そして横には私の夫、レウスがいる。 「レウス……。リアナは、きっと生きてくれるよね」 レウスはうなずいた。 「大丈夫だ、ミアキス。そのために外界に送り出すんだ」 「うんっ」 最愛の人、レウス。彼がいたから私もここまでがんばれた。 (なんてしんみりするなんて、らしくないかな) と、私は心の中で苦笑した。 「ブリューナク砲、発射準備完了しました!」 ブリューナク砲が撃てる! 最高指揮官ルームに通信が入ったとき、私は心臓が思いっきり血液を送り出したのを感じ、実際それの音さえも聞いたような気がした。 自分は緊張している。ときめいている。 「ブリューナク砲カウントダウン開始」 私は高鳴る鼓動を自制して、各指揮系統に伝達した。 彼女のすぐ横にいる研究員の一人が発動許可のボタンを押した。 「5」 私は全員に向かってマイクで数字をカウントする。 「4」 あの、忌まわしいバリアを壊す。頭の中はそれでいっぱいだ。 「3、2、1……」 バリアを壊す。娘のために。 「発射!」 私は思いっきり叫んでいた。 ブリューナク砲から放たれた巨大な魔力エネルギーは太い一本の光条となり、空に向かって放出された。 そして、大陸を覆うバリアに内側から激突する。 光条はぶつかると同時に大規模な爆発を起こした。 ――後には、穴の空いたバリアが残った。 きっかり三百三十秒後、バリアの自己修復が完了した。 バリアが一時的に破壊されてから百年。 物語は始まる。 「エリィ」 誰かが名前を呼んだ。 名前を呼ばれた。 母親――は死んだ。父親も。兄も死んだのだ。 なら、誰だろう……?名前を呼ぶのは。 数瞬後、自分が眠っていたことを思い出した。 「ん……?」 エリィは何気なくまぶたを開ける。瞬間、彼女は理解した。 さっき自分の名前を呼んだのが今、目の前の少女であること。 さっきまで夢を見ていたこと。 「目は覚めましたか?」 茶髪をおさげにした感じの少女がにっこりと言った。 「あーうん。おはようメリィ」 エリィはぐしぐし目をこすりながらほやーんとつぶやいた。 なんか、朝らしい。ので、メリィは起きることにした。 意識をはっきり持とうと首を振ると、セミロングの緑髪がはさはさと揺れた。 「おはようございます、エリィ」 彼女――メリィは仕事のパートナーだ。レプティナ研究所で一緒に働いている。 そして、何より彼女は親友だ。 エリィはベッドから降りた。いい感じの朝日が当たって気持ちいい。 「所長が私達を呼んでますよ」 「レプティナが?」 エリィは特に驚きはしなかった。研究所長のレプティナが自分達を何の前触れもなく呼びつけるのはいつものことだ。 「すぐ来て、というようなことを言ってました。じゃ、私は一足先に行ってますね」 「んーわかったー」 エリィは手早く着替えを済ませると、自慢の長剣を携えてレプティナの所に向かった。 研究所は意外と広い。ので、エリィは走って行った。 なんか、廊下を走るなとかいう張り紙があったがとりあえず無視しておく。 レプティナは遅刻をしても怒るが、廊下を走っても怒るのでどうにもならないが。 何にせよ、人にぶつかりそうになったので、やっぱり廊下を走るのはよくない、とエリィは思った。 「おそ〜い」 レプティナが第一声を上げる。 「ごめんごめん」 呼び出されたのは所長室であった。この研究所は、一応レプティナが一番偉くて、所長室というところにいる。この部屋にはコンピュータが数台置いてあり、研究所内のあらゆる場所にネットワークでつながっている。 で、そのレプティナはというと。 「ぶぅ〜」 ピンク色の肩までの髪をしているのはまあいいのだが、かなり背が低かった。加えて子供っぽいしゃべり方をするのでなんか研究者っぽくない。でも、油断すると痛い目にあう。 「ま、いいけどね。話っていうのはまた仕事の話。とりあえず近接戦闘ができるのはあなたたちだけだからよろしくね♪」 と、かわいくウインクされても困るけど。 「アジュークがいるじゃないですか」 「アジュは、まあ後で行かせるよ」 ものすごく強い近接戦闘員として、アジュークという男性がいる。エリィはまだ手合わせたことはないが、凄腕の剣術の使い手である。 今はこの場にいないが、いつもはレプティナのそばにいたり(腹心らしい)、エリィ達の任務に参加することが多い。 「ま、とりあえず内容教えてよ」 「うん。そだね」 エリィの言葉にレプティナはうなずくと、ばさーっとでかい地図を広げた。デュアルリーブ地方――ここら一帯のものだ。 背後の巨大ディスプレイがさみしく思えたりしたが。 レプティナはかなり大ざっぱに地図の右あたりを指さした。 「ここらへんだよ」 「今回はわりと近場だね」 実際、目的地のハルト・シティは鉄道で三時間もかからない距離だ。 「まあ、そうそう遠出もしたくありませんしね」 「で、今回も悪徳貴族が持ってるマジックアイテムを奪ってきてね♪」 レプティナはひきだしから一枚の絵を取り出した。 夜空の星を思わせる装飾の直剣が描かれている。 「きれい〜」 「どんなマジックアイテムなんです?」 「それはお楽しみということで〜。がんばって盗ってきてね〜♪」 レプティナはとびっきりの笑顔で言った。その裏でさりげなく悪意めいたものを感じるが。 「んじゃ行こっかメリィ」 「そうですね」 |
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